はじめに
咳とは
咳は、医学用語では咳嗽(がいそう)と言います。気道内に異物や分泌物が溜まったり、炎症が起こったりしたときに、気道を清潔にするために起こる自然な反応です。かぜ症候群やインフルエンザなどの感染症や、アレルギー、呼吸器の病気など、さまざまな原因で起こります。
咳嗽の分類
咳嗽は、その持続期間によって急性咳嗽、遷延性咳嗽、慢性咳嗽と定義されています。
- 急性咳嗽
- 3週間未満で治まるもの
- 遷延性咳嗽
- 3週間以上、8週間未満続くもの
- 慢性咳嗽
- 8週間以上続くもの
咳嗽の原因
急性咳嗽
急性咳嗽の原因で最も多いのは、かぜ症候群に代表されるウイルス性上気道感染症です。ただ、肺炎、肺がん、肺結核、急性心不全、肺塞栓症などの重要な病気も含まれるため、1〜2週間以上続く場合は胸部レントゲン撮影が行われます。
遷延性咳嗽
遷延性咳嗽も感染症に関連した咳嗽が多くみられますが、期間が長引くほど感染症以外の原因が増えてきて、咳嗽が出始めて8週間を過ぎる頃にはほとんど見られなくなります。
明らかな誘発因子(アンジオテンシン変換酵素阻害薬[ACE]を内服している、喫煙している、日常的に何かを吸い込みながら仕事をしている等)がある場合は、治療よりも誘発因子除去を優先します。
慢性咳嗽
- 胸部レントゲン検査で異常がない場合
- 米国では9割以上が後鼻漏を含む上気道咳症候群、咳喘息もしくは気管支喘息、胃食道逆流症、慢性気管支炎と言われています。日本では、咳喘息、アトピー咳嗽、副鼻腔気管支症候群が主な原因で、近年増加傾向にあるものの胃食道逆流症が咳の原因となる頻度は欧米に比べて低いと言われています。稀に感染後咳嗽の中でも、百日咳やマイコプラズマ肺炎が原因になることもあります。新型コロナウイルス感染症は感染後2ヶ月が経っても約3割のひとに咳嗽が続いたという報告もみられます。(Mandal S, et al. Thorax 2021;76:396–398)
- 胸部レントゲン検査で異常が認められた場合
- 原発性肺がん、転移性肺がん、縦隔腫瘍、悪性リンパ腫、肺結核、サルコイドーシス、気道異物、アミロイドーシス、間質性肺炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD、慢性気管支炎)、心不全、胸膜炎などの原因が疑われます。
慢性咳嗽の治療
- 咳喘息
- 気管支拡張薬
- アトピー咳嗽
- ヒスタミンH1拮抗薬、吸入ステロイド薬
- 副鼻腔気管支症候群
- マクロライド系抗菌薬、去痰薬
- 胃食道逆流症
- プロトンポンプ阻害薬またはヒスタミンH2受容体拮抗薬
- 慢性気管支炎
- 禁煙
- アンジオテンシン変換酵素阻害薬[ACE]による咳
- 薬剤中止
まとめ
「咳」と言えば非常に身近な症状ですが、実に多くの原因で生じます。薬を飲まなくても程なく治ってしまうものから、命にかかわる病気まであることから、受診の際には「咳」の種類や期間をきちんと医師に伝えるようにしましょう。